プロダクト開発初期に、ペルソナを設定するのは危険です
プロダクト開発に限らず、マーケティング戦略や施策を検討する中で、顧客像を共通化するために「ペルソナを設定しよう」という流れになることが多いと思います。では、プロダクト開発の初期段階から本当にペルソナを設定する必要があるのでしょうか?今回のコラムでは、顧客像の捉え方について解説します。
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ペルソナとは、商品やサービスを利用する典型的なユーザー像のことで、あたかもその人物が実在しているかのように人物像を描くことです。一般的には、年齢、性別、家族構成、住まい、職業、年収といったデモグラフィック属性に加えて、大切にしている価値観、ライフスタイルなど、趣味嗜好や行動パターンなどのサイコグラフィック属性についても詳細に設定し、「実在しそうな人」を作り上げます。誰もが共通の人物として具体的にイメージできるよう、詳細な情報をリアリティが感じられるように定義することがポイントとなります。プロジェクトを複数メンバーで進める際や、関係各所と認識を共通化する際に、使い勝手のよい手法です。私たちも、これまで実際のプロジェクトで何度もペルソナを設定してきました。
一方で、ぺルソナ設定時に注意しなければならないのは、ペルソナが架空の人、妄想の人になりすぎないことです。「この人はきっとこんな生活をしているから、この商品が求められているはず」と考えて進めていくのが、ペルソナ設定の目的ですが、何の根拠もない状態で、実在しない架空の人物像をいくら細かく設定しても、プロダクト開発のためになるどころか、ミスリードにつながりかねません。その点では、私たちはプロダクト開発の初期段階では、ペルソナを年齢、性別、家族構成などのデモグラフィック属性で定義しない方がよいと考えています。
プロダクト開発の初期段階では、あくまでも自分たちのプロダクトを必要とする人、「悩み・困りごと・ニーズ」がありそうな人を想定することが重要です。どんな属性の人か、ではなく、どんな「悩み・困りごと・ニーズ」がありそうな人か、で考えるのです。そして、そのターゲット顧客像をよりリアルに、鮮明に把握するには、想定した「悩み・困りごと・ニーズ」を持っていそうな人に実際にお話を聴かなければなりません。想定される顧客像にアプローチし、時間を取ってもらい、根掘り葉掘り様々な角度から話を引き出します。もちろん、仮説が明確になってからの検証にはアンケートも有効な手段の1つですが、その前段階であるプロダクト開発の初期段階では、実際にユーザーに会って話を聴くのが、何よりも新しい発見と気づきを得られます。また、その際に大事にしていただきたいのは、その顧客が、何に困っていて、何を求めているのかをしっかりと掴むことです。今どんな状況で、どんな課題や悩みがあり、どういう風になりたいのかを聴き取り、そこからターゲット顧客像がどんな人なのか、その人の切実な「悩み・困りごと・ニーズ」とは何なのかを洞察していかなければ、真にニーズのあるプロダクトにはならないでしょう。
「悩み・困りごと・ニーズ」を明確にした後につまずくのは、想定した仮説を検証したくても「その顧客像に当たらない」ということです。当たらないというのは、その「悩み・困りごと・ニーズ」を持った人が実際にいないのか、それとも、単に会えていないだけなのか、この判断はなかなか難しいところです。DSRでは「悩み・困りごと・ニーズ」の仮説を一つに断定するのではなく、いくつかの方向性(カテゴリ)で定義をして、最初に想定したカテゴリすべてで検証してみることをお勧めしています。そして、そのカテゴリごとに3~5名の人にお話を聴いてみて、それでもまったくヒットしなければ、その仮説が存在しなかったのだと判断しています。実際には、最初のうちは「想定した仮説が当たらなかった」という場合でも、いくつかのカテゴリの対象者で検証をしていると、類推される「悩み・困りごと・ニーズ」が見えてくるものです。
私たちの失敗例になりますが、DSR開発当初は「プロダクト開発をやったことがない人」がターゲット顧客像だと考え、それを検証するために「プロダクト開発の経験、関与度、業種や会社規模、役職」などを条件にお話を聴く人を選んでいました。なぜならば、インタビュー調査の現場では、対象者のデモグラフィック属性をスクリーニング条件にすることが一般的だったからです。結論から言うと、そのアプローチではうまく仮説を検証することができませんでした。では、どうすればうまく仮説を検証できたのでしょうか。次のコラムでは、プロダクト開発初期段階に取るべきインタビュー対象者のリクルートの方法についてご紹介します。